事務所・案内所・広告・標識・従業者証明書・守秘義務など
宅建業者には、業務を行う上で守らなければならない、さまざまなルール(規制)があります。
前回は、その中から「場所についての規制」について記事にしました。
「場所についての規制」の記事はこちら→宅建業法⑦「業務場所に関する規制」【宅建独学コース】
この記事では、宅建業者が業務を行う上で、守らなければならない規制について解説します。
「誇大広告の禁止」
宅建業者は、その業務に関して広告をする時、以下の8項目について、著しく事実と相違する表示や、実際の物よりも著しく優良であり、または有利であると人を誤認させるような表示をしてはいけません。
宅地・建物の | ①所在(地番等)
②規模(地積、床面積) ③形質(地目、構造、生活施設の整備状況等) |
現在または将来の | ④利用の制限(公法、私法上の制限)
⑤環境(周囲の町並み等) ⑥交通、その他の利便(駅までの所要時間) |
代金・借賃等の | ⑦対価の額、支払い方法 |
代金・交換差金に関する | ⑧金銭の貸借のあっせん(ローン条件等) |
※誇大広告の規定に違反した場合は、6ヶ月以下の懲役、100万円以下の罰金、またはこれが併科されます。
※併科(へいか)……同時に二つ以上の刑に処すること。
広告媒体に制限なく、インターネット等の広告も規制の対象になります。
「広告開始時期の制限」
宅地の造成・建物の建築に関する、工事完了前(未完成物件)においては、都市計画法の開発許可や、建築基準法の建築確認など、その工事に必要な許可・確認を受けるまでは、その物件に関する広告を行うことは禁止されています。
【未完成物件に対する広告規制】
取引の態様 | 自ら | 媒介(仲介) | 代理 |
売買 | 規制あり | 規制あり | 規制あり |
交換 | 規制あり | 規制あり | 規制あり |
貸借 | 規制なし | 規制あり | 規制あり |
「自ら貸借」は、宅建業にあたらないから、規制を受けないんだね。
宅建業についての記事→宅建業法①「宅建業」「事務所」【宅建独学コース】
「契約締結時期の制限」
上記の「広告開始時期の制限」と同じく、宅地の造成・建物の建築に関する、工事完了前(未完成物件)においては、その工事に必要な許可・確認を受けるまでは、その物件の売買・交換の契約をすることは禁止されています。
※貸借の場合は、許可・確認前の未完成物件であっても、この規制を受けません。
【未完成物件に対する契約締結時期の規制】
取引の態様 | 自ら | 媒介(仲介) | 代理 |
売買 | 規制あり | 規制あり | 規制あり |
交換 | 規制あり | 規制あり | 規制あり |
貸借 | 規制なし | 規制なし | 規制なし |
貸借の「広告」は、不特定多数に損害を与える可能性がありますが、「契約の締結」は、個別的で、もしもの時の損害額も、比較的少額なため、規制を受けなくていいことになっています。
「従業者証明書の携帯」
宅建業者は、業務中の従業者に、従業者であることを証明する「従業者証明書」を携帯させなければいけません。
宅建業者の代表取締役(社長)や、一時的なアルバイトなど、宅建業の業務を行うもの全ての者に対して「従業者証明書」を発行して携帯させるなければいけません。
また、従業者は、取引の関係者から請求があった時は、この「証明書」を提示する義務があります。
※従業者がこの規定に違反する場合、雇用者である宅建業者が、50万円以下の罰金に処せられます。
「従業者証明書」の代わりに「宅建士証」を提示しても、「従業者証明書」の提示義務を果たしたことになりません。
「取引態様の明示」
宅建業者は、広告をする時、及び注文を受けた時は、「取引態様」の別を明示しなければいけません。
※「取引態様」……自ら当事者か、媒介(仲介)か、代理なのか。
広告をする場合は、初回だけでなく、各回ごとの広告に「取引態様」の明示が必要です。
また、注文したのが宅建業者であっても、取引態様の明示が必要です。
※自ら貸借の場合は、宅建業に該当しないため、「取引態様」の明示義務はありません。
「取引態様の明示」は、書面に限らず口頭でもOK。
「宅建業者の業務処理の原則」
宅建業者は、取引の関係者に対して、信義を旨として誠実に、その業務を行わなければいけません。
また、その従業者に対し、業務を適正に実施させるため、必要な教育を行うよう努めなくてはいけません。
「不当な履行遅延の禁止」
宅建業者は、その業務に関して行うべき宅地・建物の、登記・引渡し・対価の支払いを不当に遅延する行為をしてはいけません。
※この規定に違反した場合は、6ヶ月以下の懲役、100万円以下の罰金またはこれが併科されます。
※併科(へいか)……同時に二つ以上の刑に処すること。
禁止の対象は、登記・引渡し・対価の支払いの3つに限られます。
「守秘義務」
宅建業者、またはその使用人、その他の従業者は、正当な事由がある場合を除いて、業務上知り得た秘密(個人情報等)を他に漏らしてはいけません。
これは宅建業者ではなくなった(退職した)後でも同様です。
※この規定に違反した場合は、50万円以下の罰金に処せられます。
「正当な事由がある場合」とは、例えば、裁判の証人となる場合や、本人の承諾がある場合などです。
「事実不告知等の禁止」
宅建業者は、契約締結の勧誘に際し、または申込みの撤回・解除、もしくは債権の行使を妨げるため、以下の①~④に該当する事項について、故意に真実を告げず、または不実のことを告げる行為は禁止されています。
【その他、相手方の判断に重要な影響を及ぼすこととなる事項】
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「不当に高額な報酬を要求する行為の禁止」
宅建業者は、法定報酬を超えるような、高額な報酬を要求してはいけません。
なお、実際には高額な報酬を受け取らないことになっても、要求した時点で宅建業法に違反します。
※この規定に違反した場合は、1年以下の懲役、100万円以下の罰金またはこれが併科されます。
「手付貸与による契約誘引の禁止」
宅建業者は、手付の貸付、手付金に関する信用の供与によって、契約の締結を誘引する行為が禁止されています。
禁止行為に該当すれば、実際に契約を締結したか否かに関係なく、宅建業法に違反したことになります。
禁止行為(信用の供与) | 禁止されていない行為 |
×手付金の貸付・立替え
×手付金の分割払いの承認 ×手付金の後払いの承認 |
◯手付金の減額
◯代金の減額 ◯手付金の借入れについて金融機関をあっせんすること |
※この規定に違反した場合は、6ヶ月以下の懲役、100万円以下の罰金またはこれが併科されます。
「勧誘にあたっての禁止事項」
宅建業者は、勧誘をする際に、相手方等に対して、以下の6つに該当する行為をすることは禁じられています。
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普通に考えて、悪質だと思う勧誘はダメってことです。
「威迫行為の禁止」
信頼産業を目指す宅建業者は、契約を締結させるために、また契約の解除の申し込みの撤回を妨げるために、相手方を威迫することは当然に禁止されています。
※威迫(いはく)……威嚇したり脅迫すること。相手方に不安の念を抱かせる行為。
「威迫行為」は、指示処分、業務停止処分に該当し、情状が特に重い場合には免許取消処分の対象となります。
「預り金の返還拒否の禁止」
宅建業者は、相手方等が契約の申し込みの撤回を行うに際し、すでに受領した預り金を返還することを拒んではいけません。
※預り金……賃貸の場合の物件を押さえてもらう目的や、また申込者の意思を確認するために預けるお金です。
預り金の一部を申込書の処分手数料、解約手数料、媒介報酬などの名目(理由に)で受領したまま返還しないことも禁止されています。
「業務上の規制」まとめ
・誇大広告の禁止…嘘や誤解を招く広告はダメ。
・広告開始と契約締結時期の制限がある。
【工事に関する許可・確認前】
広告 | 契約 | |
売買・交換 | できない | できない |
貸借 | できない | できる |
※「自ら貸借」の場合は、宅建業にならないため規制を受けない。
・従業者は従業者証明書の携帯義務あり。社長も。
・取引態様の明示は広告時、注文を受けた時。口頭でもよい。
・業務上で知り得た秘密は守る。
・重要な事は隠さず・忘れず、真実を説明。
・法定報酬以上を請求してはいけない。
・顧客の権利を妨害・阻止してはいけない。
・信義則上(普通に考えて)ダメなものはダメ。
「業務上の規制」には、懲役・罰金・監督処分など多くの厳しい罰則が定められているため規定の正しい理解が必要です。
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