宅建業に関する取引で、お客さんに万が一の損害が発生した時に備えた「営業保証金制度」。
しかし、営業保証金は非常に高額なので、宅建業をはじめようとする者は、事前に多額の資金を用意しなければなりません。
そこで、同じようにお客さんの救済ができ、宅建業者の負担を軽くするために「保証協会制度」という制度が用意されています。
「保証協会制度」の概要
宅建業者が業務を開始するには「営業保証金の供託」が必要です。
※営業保証金制度については→こちらの記事
しかし、営業保証金の供託には、高額な供託金がいるため、宅建業者の負担が大きくなり、宅建業を始めたくても資金の少ない個人などには、厳しいものとなっています。
そこで、資金の少ない個人でも、少額の資金で宅建業を始められるようにが用意されたのが「保証協会制度」です。
この「保証協会制度」により、宅建業者は、保証協会に加入し、社員となることで、「営業保証金の供託」が免除され、宅建業の業務を開始することができます。
つまり、宅建業の業務を開始するには、「営業保証金の供託」か「保証協会の社員になる」かの2択で選べるってことだね。
保証協会とは
保証協会とは、国土交通大臣の指定を受けた一般社団法人で、宅建業者のみが社員になることができる団体となっています。
保証協会の業務
保証協会は、主に必須業務(義務)として、社員との宅建業に関する取引をした者に対する「弁済業務」を行っています。
その他にも、宅建士などの宅建業の従事者に対する「研修」や、社員にかかる「苦情の解決」を必須業務として行っています。
必須業務(義務付けられた業務)
- 弁済業務←※これがメイン業務
- 研修
- 苦情の解決
この他にも、任意の業務がありますが、上記の3つが義務で、その他が任意と覚えましょう。
社員の加入
宅建業者が保証協会に加入することを「保証協会の社員になる」といいます。
保証協会は、現在、保証協会には「①全国宅地建物取引業保証協会」と「②不動産保証協会」の2つの団体がありますが、1つの保証協会の社員である宅建業者は、他の保証協会の社員になることはできません。
また、保証協会は、新たに社員が加入し、または社員がその地位を失った時には、直ちに、その社員の免許権者に報告しなければいけません。
※免許権者……免許を受けた都道県知事、国土交通大臣
ちなみに、2つの保証協会の簡単な見分け方として、①は「ハト」のマークで、②は「ウサギ」のマークとなっています。
加入の手続き
保証協会の社員になろうとする宅建業者は、保証協会に加入しようとする日までに、弁済業務保証分担金(分担金)を納付しなければいけません。
また、分担金の納付を受けた保証協会は、これと同額を弁済業務保証金として供託所に供託します。
なお、分担金の納付時期は、新規加入の場合と、事務所(支店)増設による追加分の場合で異なります。
新規加入時 | 加入しようとする日までに分担金を納付 |
事務所増設時 | 増設の日から2周間以内に分担金を納付 |
分担金の額
分担金の額は、
- 主たる事務所(本店)が60万円
- 従たる事務所(支店)1ヶ所につき30万円
となっています。
例えば、本店と支店3ヶ所で営業する宅建業者の場合
60万円+30万円×3=150万円
【営業保証金との比較】
主たる事務所(本店) | 従たる事務所(支店)1ヶ所につき | |
営業保証金 | 1000万円 | 500万円 |
分担金 | 60万円 | 30万円 |
分担金なら、営業保証金の100分の6でいいんだね。
弁済業務保証金の供託
保証協会は、社員から納付を受けた分担金と同額を、納付を受けた日から1周間以内に、供託所に弁済業務保証金として供託します。
保証協会が行う、この弁済業務保証金の供託については、金銭だけでなく、有価証券を用いることができます。
そして、保証協会は、弁済業務保証金を供託した時は、その旨を、その社員の免許権者に届け出なければいけません。
ちなみに、保証協会が供託する供託所は、東京法務局に限定されています。
弁済業務保証金の還付
営業保証金の場合と同様に、宅建業に関する取引で損害を受けた者は、弁済業務保証金から、還付(弁済)を受けることができます。
※営業保証金制度については→こちらの記事
また、還付を受けることのできる債権も、営業保証金と同じで、社員が社員になる前(営業保証金で業務をしていた時)の取引によって生じた債権についても、還付の対象になります。
※債権(債権)……相手方に特定の行為をさせる権利。
しかし、「弁済業務保証金の還付」は、「営業保証金の還付」と手続きに違いがあります。
還付の手続き
宅建業に関する取引で損害を被った者(債権者)は、その債権について還付(弁済)を受けることができます。
還付を受けようとする者は、営業保証金の場合と違い、還付(弁済)を受ける額について保証協会の認証を受けなければいけません。
そして、保証協会に認証された後、供託所に還付請求をすることで、供託所から還付を受け取ることができます。
還付額
債権者が受け取ることのできる還付額は、取引をした宅建業者が、保証協会の社員でなかった場合に、供託しているはずの営業保証金の額に相当する範囲内になります。
例えば、本店と支店3つで営業している宅建業者(保証協会社員)の場合。
分担金は、60万+30万×3=150万円となりますが
これを、債権者が還付を受ける場合には、分担金の額を、営業保証金だった場合の供託額に置き換えます。
上記分担金が営業保証金だった場合は
1000万+500万×3=2500万円
そして、この2500万円が債権者が受け取れる還付額の限度となります。
※営業保証金の供託額については→こちらの記事
保証協会制度でも、還付請求をするのは供託所に対してな点に注意。
還付充当金の納付
債権者に対して還付が行われると、供託所の弁済業務保証金に不足が生じます。
この弁済業務保証金に不足が生じた場合、その不足額は保証協会が、先に供託所に供託し、その後、社員(宅建業者)が保証協会に不足額を納付するという流れで補充されます。
この社員が保証協会に対して、不足額を納付することを、「還付充当金の納付」といいます。
※不足額とは……実際の還付額に相当する額。
例えば、2000万円の還付があれば、2000万の還付充当金が必要となります。
【還付充当金納付の流れ】
-
認証:保証協会に、還付対象の債権があることを認めてもらう。
-
還付請求:債権者が供託所へ還付の請求をする。
-
還付実行:供託所から債権者に還付が行われます。
-
国土交通大臣に通知:供託所が国土交通大臣に、還付した旨を通知する。
-
保証協会に通知:国土交通大臣が保証協会に、還付された旨を通知する。
-
不足額を供託:保証協会が、通知を受けた日から2週間以内に供託所に供託。
-
社員に通知:保証協会が社員に、還付充当金の納付すべき旨を通知。
-
還付充当金の納付:社員が保証協会に、通知を受けた日から2週間以内に還付充当金を納付。
なお、宅建業者は、通知を受けた日から2週間以内に、還付充当金の納付がない場合、保証協会をクビになります(社員の地位を失う)。
社員の地位を失った場合
宅建業者は、以下の①か②のどちらかの事由により、保証協会をクビ(社員の地位を失った)になった場合、社員の地位を失った日から、1週間以内に営業保証金を供託しなければいけません。
なお、一週間以内に供託しない場合は、業務停止処分もしくは、免許取消処分を受ける場合があります。
処分が確定ではない点に注意です。
弁済業務保証金の取戻し
分担金を納付した宅建業者は、保証協会の地位を失った場合などに、分担金の返還を求めることができます。
そして、その分担金の返還を行う前に、保証協会は供託所から弁済業務保証金を取戻します。
これを「弁済業務保証金の取戻し」といいます。
また、この「取戻し」を行うには、「公告」が必要な場合と、不要な場合があります。
※公告……ある事項を広く一般に知らせること
「弁済業務保証金の取戻し」の公告は、保証協会が行います。
公告が必要な取戻し
・社員が社員の地位を失った場合
保証協会は、社員が社員の地位を失った場合、還付請求権を持つ者(債権者)に対して、6ヶ月以上の一定期間内に、還付を申し出るべき旨を公告をしなければいけません。
そして、その期間内に申し出がない場合に、弁済業務保証金を取戻すことができます。
公告が不要な取戻し
・一部の事務所を廃止した場合
保証協会は、社員が一部の事務所を廃止したため、分担金の額が、法定額を超える場合、その超えた額に相当する弁済業務保証金を、公告なしで取り戻すことができます。
準備金と特別分担金
弁済業務保証金準備金
保証協会は、債権者の還付によって、不足額を供託する場合に、その社員から還付充当金の納付がなかった時に備えて、弁済業務保証金準備金(準備金)を積立なければいけないことになっています。
特別弁済業務保証金分担金
保証協会は、不足額を供託する場合に、準備金を充てるだけでは足りない場合には、全ての社員に対して、特別弁済業務保証金分担金(特別分担金)を納付するように通知しなければいけません。
また、通知を受けた社員は、通知を受けた日から1ヶ月以内に、通知された特別分担金を保証協会に納付しなければいけません。
納付しない場合は、社員の地位を失います。
「保証協会制度」まとめ
・「営業保証金の供託」の代わりに「保証協会の社員」になることで宅建業の業務を開始できる。
・社員になるための、分担金の納付は、加入しようとする日まで
・分担金納付後、保証協会が、1週間以内に弁済業務保証金を供託所に供託。
【営業保証金と分担金の違い】
営業保証金 | 分担金 | |
主たる事務所(本店) | 1000万円 | 60万円 |
従たる事務所(支店) | 500万円 | 30万円 |
供託物/納付物 | 金銭または有価証券 | 金銭のみ |
事務所(支店)増設から、
業務開始まで |
供託→その旨を免許権者に届出後、業務開始。 | 増設の日から2週間以内に納付後、業務開始。 |
・還付の対象は、営業保証金と同じ。
・債権者は、保証協会の認証後、供託所に還付請求。
・還付後、社員は、通知から2週間以内に還付充当金を保証協会に納付。
・弁済業務保証金を取り戻す場合は、保証協会が公告。
・公告する場合は、6ヶ月以上の一定の期間を定める。
「営業保証金制度」と似ているところがあるので、違いを要チェック。
※営業保証金制度については→こちらの記事
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