宅建業者の販売する不動産を購入しようとする場合
宅建業者(プロ)と宅建業者でない一般消費者(アマ)では、不動産取引に関する知識や経験に大きな差があります。(プロ・アマ対決)
そのため、いつの間にか宅建業者がに有利な契約をさせられてしまうかもしれません。
そこで、宅建業法では、両者を対等・平等にするために、民法の原則を修正した8種のルールが定められており、宅建業者(プロ)にハンディキャップをつけることにしています。
「8種制限」の適用関係
「8種制限」が適用されるのは、売主が宅建業者で、買主が宅建業者以外の場合に限られます。
したがって、宅建業者間の取引や、売主が宅建業者以外の者である取引には、一切適用されません。
宅建業者が、代理・媒介を行う場合も8種制限は適用されません。あくまで「宅建業者が自ら売主、宅建業者以外が買主」の場合のみになります。
「8種制限」
宅建業法に定められている「8種制限」とは、具体的に以下の8つの規定になります。
- クーリングオフ制度
- 手付の性質と額の制限
- 手付金等の保全措置
- 自己の所有に属しない物件の売買契約の制限
- 担保責任(契約不適合責任)についての特約の制限
- 損害賠償額の予定等の制限
- 割賦販売契約の解除等の制限
- 所有権留保等の禁止
①クーリングオフ制度
宅建業者の「事務所等」以外の場所で、買受けの申し込みや、売買契約の締結をした場合、一定の期間ならば、申込みの撤回や売買契約の解除をすることができます。
この制度を、クーリングオフ制度といいます。
クーリング=「冷静に」、オフ=「撤回・解除する」
クーリングオフができない場所
クーリングオフは、冷静な判断ができない場所でおこなってしまった契約から、買主を救済する制度です。
そのため、買主が冷静な判断ができると考えられる場所(「事務所等」)で、買受けの申し込みや契約をおこなった場合は、クーリングオフできません。
【クーリングオフできない「事務所等」】
- 契約に関わる宅建業者の事務所(本店・支店)
- 事務所以外の場所で継続的に業務を行うことのできる施設(専任の宅建士設置義務がある場所)
- 土地に定着した一団の宅地建物の分譲を行う案内所等(専任の宅建士設置義務がある場所※モデルルームなど)
- 土地に定着した展示会その他催しをする場所(専任の宅建士設置義務がある場所)
- 買主から申し出があった自宅と勤務先(宅建業者の申し出による場合はクーリングオフできる)
つまり、その場所が「土地に定着していて、専任の宅建士の設置義務がある場所」かどうかがポイントですね。
ちなみに、クーリングオフできる場所には、その旨を表示した標識が必要です。
申込みと契約締結場所が異なる場合
買受けの申込みをした場所と契約締結をした場所が異なる場合は、「申込みの場所」を基準に、クーリングオフできるか否かを判断します。
申込み場所 | 契約の場所 | クーリングオフ |
「事務所等」 | 「事務所等」以外 | ×できない |
「事務所等」以外 | 「事務所等」 | ○できる |
クーリングオフできない「例外」
なお、クーリングオフができる旨及びその方法について、宅建業者に告知義務はありません。
宅建業者から、クーリングオフについて書面での告知がなかった場合は、「8日間の起算」は始まらないため、いつでもクーリングオフできることになります。
告知は必ず書面でする必要があり、口頭で告知しても告知したことにはなりません。
買主が物件の引渡しを受けて、しかも代金全額を支払っていれば、契約の履行が完了していることになるため、その後のクーリングオフはできません。
したがって、たとえクーリングオフについての告知がない場合や、告知から8日間以内であっても、履行が完了していればこちらが優先され、クーリングオフはできなくなります。
クーリングオフの方法
買主がクーリングオフをおこなうときには、必ず書面でおこなう必要があります。
また、クーリングオフの効果が発生するのは、その書面を発した時になります。
なお、この書面には、決められた書式はありません。
クーリングオフの効果
クーリングオフがなされた場合、宅建業者は、すでに支払われている手付金や中間金を、速やかに全額を返還しなければいけません。
また、クーリングオフに伴う損害賠償や違約金の支払いを請求することもできません。
クーリングオフに関する特約
クーリングオフに関する規定に反するような、宅建業者でない買主に不利となる特約は無効です。
また、宅建業者でない買主が、了承した不利な特約であっても無効です。
逆に、「クーリングオフできる期間を10日間とする特約」など、買主に有利となる特約は有効になります。
【無効となる「買主に不利な特約」の例】
例①:クーリングオフによる契約の解除をしない旨の特約 |
例②:クーリングオフの際に、売主が損害賠償請求できる旨の特約 |
例③:クーリングオフの際に、手付金を返還しない旨の特約 |
例④:クーリングオフできる期間を、告知日から起算して7日間とする特約(8日間より短い) |
②手付の性質と額の制限
※「解約手付」とは、
※「契約の履行に着手」とは、
これに反する「買主のほうが、手付の倍額を払わないと契約解除できない」などの、買主に不利な特約は無効となります。
例えば、自ら売主の宅建業者が、宅建業者でない買主から、2000万円の物件について手付を受け取る場合、2,000×0.2=400だから、手付の限度額は400万円になりますね。
また、買主の承諾があったとしても、手付金の保全措置を講じたとしても、代金の2割を超えて手付金を受領することはできません。
③手付金等の保全措置
1,保全措置の原則
手付金等を支払って契約をしたあと、物件の引渡し前に、売主の宅建業者が倒産したりすると、買主は物件の取得ができず、支払った手付金等も返ってこない、という最悪の自体になります。
そのため、自ら売主となる宅建業者には、宅建業者以外の買主から金銭を受け取る前に、あらかじめ受け取る金銭に対して「保全措置」を講じることが義務付けられています。
したがって、一定の「保全措置」を講じたあとでなければ、宅建業者以外の買主から手付金等を受領することはできません。
※「保全措置」とは、
※「手付金等」とは、
また、売主である宅建業者が、「保全措置」を講じない場合には、買主は手付金等の支払いを拒否することができます。
買主が、「保全措置」を講じないことを承諾していたとしても、「保全措置」の義務は免除されません。
2,保全措置が不要なケース
手付金等の額が一定額以下の場合には、「保全措置」は不要になります。
手付金等の額 | |
完成物件の場合 | 代金の10%以下、かつ、1000万円以下 |
未完成物件の場合 | 代金の5%以下、かつ、1000万以下 |
上記の基準を超える手付金等を受領する場合は、超えた部分だけでなく、手付金等の全額を保全する必要があります。
例えば、未完成物件の場合、「保全措置」を講じず代金の5%以下の手付金を受領した後、それにくわえて中間金を受領しようとするときには、すでに受領した手付金の額と、受領しようとする中間金の額の合計額について「保全措置」を講じなければ、中間金を受領できません。
また、買主への所有権移転の登記がされたとき、または買主が所有権保存の登記をしたときは、手付金等の保全措置を講じる必要はありません。
3,保全措置の方法
保全措置の具体的な方法には、次の3つがあります。
- 銀行等による保証
- 保険事業者による保険
- 指定保管機関による保管
どの方法で保全するかは、宅建業者が任意で選択することができますが、未完成物件の場合だけ、「指定保管機関による保管」を用いることができません。
銀行等による保証 | 保険事業者による保険 | 指定保管機関による保管 | |
完成物件 | ○ | ○ | ○ |
未完成物件 | ○ | ○ | × |
④自己の所有に属しない物件の売買契約の制限
民法上、他人の所有する物(他人物)の売買は有効です。
しかし、宅建業法では、原則として、宅建業者が自ら売主として、自己の所有に属さない宅地・建物の売買契約・予約契約を締結することは禁止されています。
【禁止される2つの売買】
- 他人物売買(他人に所有権がある物件の売買)
- 未完成物件の売買
※「停止条件付契約」とは
⑤担保責任(契約不適合責任)についての特約の制限
担保責任(契約不適合責任)とは、売買の目的物が種類・品質に関して契約の内容に適していない場合、売主は、帰責事由の有無に関係なく、その不適合を担保する責任を負うという民法上の規定になります。
つまり、なんの問題もないと思って購入した建物などに、シロアリ被害や雨漏りがするなどの欠陥が、購入後見つかった場合、売主は、その修繕や、損害賠償などの責任を負うということです。
この規定により、買主は以下の権利を行使することができます。
- 修補請求(追完請求権)
- 代金の減額請求権
- 損害賠償請求権
- 契約解除権(目的が達成できない場合)
これらの権利を行使するためには、買主が「契約不適合を知った時から1年以内」にその旨を売主に通知する必要があります。
宅建業法においては、宅建業者が自ら売主として、宅建業者でない買主との間で宅地・建物の売買契約を締結する場合に、その目的物の担保責任について、原則として、上記の民法の規定よりも買主に不利となる特約は無効となります。
ただし、宅建業法では、例外として、買主が、売主の担保責任(契約不適合責任)を追求(通知)できる期間を「引渡しの日から2年(以上)」とする特約は有効になります。
無効となる特約の例 |
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有効となる特約の例 |
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(※)の「担保責任を負わない」とする特約は、業者間売買(プロ同士)の場合は有効となります。
⑥損害賠償額の予定等の制限
宅建業者が、自ら売主となる場合には、当事者の債務不履行を理由とする契約の解除に伴う、損害賠償額の予定及び違約金の定めをするときは、これらを合算した額が代金の2割(20%)を超えてはいけません。
※業者間取引の場合はこの制限はありません。
この規定に反する特約で、損害賠償額の予定等が代金の2割を超えた場合は、その2割を超える部分についてのみ無効となります。
⑦割賦販売契約の解除等の制限
宅建業者が自ら売主となる宅地・建物の割賦販売(分割)契約について、宅建業者でない買主からの賦払金の支払いが遅延した場合でも、ただちに契約を解除することはできません。
また、支払い時期の到来していない賦払金の支払いを請求することもできません。
なお、買主の支払いが遅延したことを理由に、契約を解除したい場合、宅建業者は、30日以上の期間を定めて書面で履行を催告しなければいけません。
そして、その期間に支払いがなければ、契約の解除ができます。
つまり、買主に一度は支払いのチャンスを与えないとダメということですね。
⑧所有権留保等の禁止
所有権留保とは、「買主の代金の支払いが済むまでは、目的物の所有権を売主のもとにあるままにしておくこと」になります。
宅建業法では、宅建業者が自ら売主となる割賦販売において、所有権留保等(登記の留保など)を、原則として禁止しています。
そのため、宅建業者は、物件の引渡しまでに、原則として、登記の移転や売主の義務を履行しなければいけません。
ただし、例外として次の場合には所有権留保が認められます。
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「8種制限」まとめ
「8種制限」が適用されるのは、宅建業者が自ら売主で、買主が宅建業者以外の場合。
規制の内容 | 例外規定等 | 注意点 | |
①クーリングオフ | 事務所等以外でした申込み・契約は白紙撤回できる |
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②手付の性質と額の制限 |
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2割を超えた部分は無効 | 買主に不利な特約は無効 |
③手付金等の保全措置 | 手付金等を受領する前に保全措置が必要
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左記を超える場合、全額を保全 |
④自己の所有に属しない物件の売買契約の制限 |
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⑤担保責任(契約不適合責任)についての特約の制限 | 契約不適合責任に関する民法の規定より、買主に不利な特約は無効 | 責任追及期間を「引渡しの日から2年以上」とする特約は有効 | 買主に不利な特約は無効 |
⑥損害賠償額の予定等の制限 | 損害賠償・違約金の予定は代金の2割を超えてはいけない | 2割を超えた部分のみ無効 | |
⑦割賦販売契約の解除等の制限 | 30日以上の期間を定めて書面で催告が必要 | 左記を満たさないと解除等は無効 | 買主に不利な特約は無効 |
⑧所有権留保等の禁止 | 割賦販売における所有権留保が禁止 |
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